どしゃぶりの雨の中、

駅から走って帰る一人の青年…。

紺碧の髪が雨に濡れて傘を差しながら歩く女性は彼を振り向いて見惚れる。

そして少し人通りの多い道を通り過ぎ、いつもの家の人気のない通りに出る。

この辺には彼の家しかないので誰も来ないのだ。

目の前に家があるのに高い塀はどこまでも続く。

苛立ちながらも走り続けると、ふと足が止まった…。

家の傍の街灯の下に誰かがいるのだ…。

彼は見つめたまま動けなくなっていた……。












拾い猫









彼の名はアスラン・ザラ。
大企業の御曹司である。
そんな人物でありながらも彼は一般庶民のように生活することが好きだった。
だから自分の足で今日も会社へ行って帰る予定だったのだ。
しかし、突然の大雨に帰りはびしょ濡れ覚悟で帰る羽目になってしまったのだ。



だが、その彼は今街灯の下にいる人物に釘付けにされている。
気になってアスランは声をかけた。



「おい…?何してるんだお前…。」



すると、ぴくっと反応して顔をあげた人物は瞳をまん丸に開いてアスランを見た。
しかしアスランにとっては驚くことがたくさんであった。
まずは『少年』であること。
少女に見えるような濡れた栗色の髪と紫紺の瞳を持ちながらも、
明らかに少女ではないように服から覗いている手足が男性特有の骨格をしているからだ。
次に『服装』。
雨で濡れている上に泥だらけで少し擦り切れているのだ。
最後に『人種』…である。
明らかに人ではなく、その少年には黒い猫の耳と黒いしっぽがある。
その少年はどうやら猫耳化の獣族のようだった…。



けれどもアスランはすでにその少年の虜になっていた。
欲しいという『欲望』よりも『一目惚れ』という方が近いだろう。
そしてアスランは自分の手を少年に差し出していた。



「家…近くだから入らないか?ここじゃ寒いだろう…?」



アスランのその言葉に少年は困ったような表情をした。
そりゃあいきなり知らない人物に家に来ないかなどと言われれば困惑するだろう。
アスラン自身も何を言ってるんだ!?と内心はとても慌てている。



しかし、アスランは少年自身が可哀想だとも思っていた。
こんなどしゃぶりで冷たい雨の中じっと座っているのだ。
まぁ雨に濡れている子犬を見ると放っておけない感じである。



「大丈夫。何もしないから。」



本当に純粋に微笑むアスランを見て少年はその手に手を伸ばした。
少し細くなってしまった白い手がアスランの手をしっかり掴む。
アスランはふっと笑うと少年の手を引いて歩き出した。
濡れることも構わずに少年がついて来れるようにゆっくりと…。









家の中に入るとメイドたちがあれこれと手を尽くす。
濡れたアスランを心配するように素早くタオルで身を包ませた。
しかし、アスランはふうっと溜め息を吐いて、



「俺はいいからこの子を先に風呂に入れてやってくれ。」



その一言に多少メイドたちは困惑しながらも主人の命令に従った。
少年にタオルを掛けお風呂へと招こうとする。
しかしその少年は怯えたようにアスランへとしがみつく。



「?」



アスランはどうしたんだ?と聞くように少年の顔を見た。
少年はふるふると顔を横に振っている。



「…君と…離れるの…ヤダ……怖い……。」



か細い声で初めてしゃべった言葉は恐怖を含んだものだった。
アスランはそっかっと優しく微笑むと少年を引き寄せた。



「わかった、わかった。」



そう言って軽く頭を擦ってやる。
そしてアスランがそのまま歩き始めた。



「この子は俺が面倒みるからいいや。それと、二人で風呂に入るから着替えとタオル用意しといて。」



またもやメイドたちは困惑するが素早く支度を始めた。
アスランはその様子を見て少年を風呂へと促した。
少年もアスランにしがみついたままついて行った。









広いお風呂場の脱衣所でアスランはキラの服を脱がしていた。
しかし、首に誰かの首輪が付いていた。
それに多少むすっとしたがそれは自分の我が儘なので冷静になる。



「これ…首輪…だよね?君どこかにご主人がいるの?」

「…。」



少年はその質問にいきなり黙り込んでしまった。
その上目に涙が溢れてきている。
アスランは頭をまた撫でてやった。



「ごめんごめん。聞いちゃいけないことだったかな?でも悪気があって聞いたわけじゃないんだ。」



そう優しく言うと、少年はこくんと頷いて涙を止めた。
そして、ゆっくりと口を開いた。



「前のご主人様のなんだ…。僕…捨てられたから…。」



少し落ち込んだように少年は語る。



「前のご主人様はとっても優しい女の人で僕に優しくしてくれた。
 でもその女の人には旦那様が居てその旦那様は奥様が僕を可愛がっているのが気に入らなかったんだ。」



少年は前の主人を懐かしむように目を閉じた。
きっと今までの日々を思い出しているのだろう。
そして少したってから目を開いた。



「それで旦那様が奥様と喧嘩をして僕が捨てられることになったんだ。」

「…そうなんだ…。」



少年はまた涙を流した。
アスランは優しく涙を拭ってあげた。



「ご主人様は泣いてた。でも、ごめんねって何度も謝って僕が見えなくなるまで窓から何かを叫んでた…。」



少年の涙はどんどん溢れていく…。
まるで悲しみが今になって押し寄せて来たかのように…。
だから抱きしめて泣き止むまで待った。






少し経つと少年はごめんなさいと謝ってから大丈夫と言った。



「捨てられたのは悲しかったけど、もう大丈夫。」

「そうか、よかった。」



アスランが笑うと少年も笑った。



「くしゅん!!」

「あっ、このままじゃ寒いね。お風呂に入ろうか?」



そう勧めると少年はこくんと頷いた。
そしてアスランは少年の首輪を見下ろした。



「これはもう外していいのかい?前のご主人からの物だろう?」



アスランに言われて、少年は少し考えこんだ。
だけど、すぐに頭を上げて、



「僕がつけていてももうご主人様のところには帰れませんから、いいです。」



すこし悲しみもあるようだが少年はゆっくりと首輪を外した。
首から外してそれを見る少年は微笑んでいた。
もう大丈夫だから…と。



「あなたに話を聞いてもらって心が軽くなったから…。」



そしてお風呂へと入り湯船で体の芯から二人で温まった。
それからふとアスランが思いついたように尋ねた。



「そういえば、君これからどうするの?」



アスランと向かい合うように浸かっている少年は少し俯いた。



「僕はもう行く所がないからこのままどこかを彷徨うことにします。
 もともと獣族ですから、外での生活は慣れてますし。」



そう言った少年にアスランは微笑んだ。



「なら、家に住めばいい。もともとそのつもりで君を拾ったのだし。」



アスランの言葉に少年は驚く。
それから慌てて首を横に振った。



「そっ…そんな!?駄目っ!!僕みたいに捨て猫を置いてくれるなんてそんなの駄目です!!」

「何言ってるの?いいじゃないすでにもう家のお風呂に浸かってるんだし。」



はっとして少年は風呂から出ようとした。
よくよく考えれば先ほどまではついつい情に流されてついて来てしまったが自分は捨て猫だったのだと。
少年はいろいろ考えた。
こんな豪邸に自分は場違いだと。



「すいません!!すぐ出て行きます!!」



しかし、アスランがそれを許しはしなかった。
腕を引いて少年を湯船へと引き戻した。
バランスを崩した少年は思い切りアスランの胸元へ倒れ込んだ。



しばし大きな波がたち水面に波紋が広がった。
そして元の静寂な空間に戻って行った。



「出て行かなくていいよ。むしろ居て欲しい…。」

「え?」



その言葉にまた少年は驚く。
アスランは微笑みながら少年に言う。



「実は君に一目惚れしたんだ。あの雨の中で…。だから傍に居てくれないか?」

「…。」

「こんな動悸じゃ嫌かな?」



アスランは少年を見下ろすように見つめた。
逆に少年はアスランを見上げるように見つめた。
沈黙で静寂な空気がまた流れる。
それから少年は言葉を紡ぐ。



「…居て…いいんですか…?」

「もちろん。」

「こんな僕でも…?」

「一目惚れって言ったでしょ?好きな人がどんな人でも構わないさ。」

「……じゃあ…居たいです…。」



少年は下に向いた。
アスランは満足そうに微笑んだ。



「ねぇ?名前を教えて?」

「え?」

「名前がないと君のこと呼べないでしょ?いつまでも『君』って呼びたくないし。」



アスランがにっこりと聞く。
少年は恥ずかしがるようにゆっくりと口を開く。



「…『キラ』…。」

「…キラ…。キラって言うんだ…。」

「…うん。生まれた時に親にもらった名前。」



キラと名乗った少年はそう語った。
そしてアスランはキラを自分の方にちゃんと向かせる。



「キラ…。じゃあ俺の名前も覚えて。」

「君の?」

「そう。俺も『君』じゃなくて『アスラン』って名前があるから。」

「アスラン?」

「うん。アスラン。」



呼ばれることが嬉しいのか幸せそうにまた微笑む。
キラはその微笑みに頬が紅潮した。



「どうしたの?」



アスランに気付かれてキラはもっと真っ赤になる。
アスランはそんなこともお構いなしにまた聞く。



「どうしたんだ?」



気持ちは恥ずかしいのだがしっぽは嬉しそうに揺れている。
だからキラは照れながら言った。



「貴方のその笑った顔…好き…。自分も嬉しくなるし、優しい気分になるの。」

「本当に…?なら嬉しいな。」



アスランはキラを抱き寄せて喜んだ。
キラも嬉しくて擦り寄る。



「これから宜しくねキラ。」

「うん。アスラン。」












そうして拾い猫は新しい主人の元で生活を始める。
最初は豪邸での生活に慣れなかった。
メイドさんたちと打ち解けるまでに時間もかかった。
しかし傍にはいつもアスランが居てキラに優しくしてくれた。
助けられ、逆にキラはアスランを支えあった。


また、しばらく経ってから二人は恋人にもなった。
周囲の反対もあったが、それらはアスランの人望と人柄の良さで逆に理解を得る事もできた。
キラはアスランに出会う事によって救われ、幸せになれた。
そしてアスランはキラに出会い、愛と絆の深さを知り、支えられた。



二人は幸せになれた、ずっと永遠に…。
愛情と幸福に溢れた毎日を送りながら……。
























珍しく猫化。
しかしあまり猫だという描写がない…;;
やっちまったぜ…。
でも書くのは楽しかったvv
さくさく書けちゃいましたから♪
こういうのまた書きたいな。
しかし少し暗めでごめんなさいよ…;;
キラの名前も最後にならんと出てこんし…。
いったい誰の話??って感じになるでしょうよ…。
まぁ自分がよければオールOKってことで(笑)



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