学園の生活を支える自分…。

世界の人々の交渉。

貿易。

書類の采配。

行事の構想。

交流会と称されるパーティー。

『理事長』と、言う肩書き。



しかし、そんな生活は遠い昔には有り得なかった…。



幼い頃の記憶…。

焼け焦げた家。

黒い焼死体が2つ。

周りはどこも焼け跡の匂いがして…。

その時の私は…、



全てがリセットされた…。









Zero
〜零〜






私は小さな村の、
小さな家の、
優しい夫婦の娘だった。


『アイル』と名づけられた私は、
父と母の愛情を一身に受けて育った。


父も母も仲睦まじい夫婦だった。


母は、父と結婚する前はその時代に大きかった都市で働く人だったらしい…。
父はそう言っていたが、
母の親戚が母の曾祖母は高名な魔法使いで、
そのツテで母は研究所で働く科学者だったとも聞いたこともあった…。


しかし、農業を営んで居る父と仕事で遠方で出会った際に恋に落ち、
祖母の反対を押し切って家を飛び出して父と結婚した。


父は、再三に祖母には謝りの連絡を入れたが、
祖母が聞き入れてくれることはなかったそうだ…。


けれど、そんな中でも私は幸せな生活を送っていた。


朝起きて、
父と母と一緒に農場で羊を追いかけたり、
ピクニックをしたり、
遊んだりすることも、
自分にとっては楽しい毎日だった。


その裏で、
母が毎晩祖母の写真を見ながら泣いていることも多々あったが…。


でも、母は後悔はしていないと言っていた。
父を本当に愛しているし、
私を愛していると…。


ただ、1番認めて欲しい人に認められなかったのが悲しいのだと…。
そう呟いていた…。


そんな平凡で穏やかな時間が流れている毎日…。





それは自分が10歳になる頃、
儚くも崩れ去って行った…。





『戦争』というモノが私の生活の全てをリセットしたのだ…。










戦争の放火が私たちの村を巻き込み、
関係のない村の人たちまで殺されるハメになってしまったのだ…。


村は全て焼け、
炎の中、
父と母は私を助ける為に変わりに焼け死んだ。
人々が逃げ惑う中、
私は焼ける家の前でただ泣き続けることしか出来なかった。


その中は熱かった。
叫び声と、
銃や魔法兵器の音と、
黒い空が赤く見える程の火の海と、
焼け焦げる匂いしかしなかった。


空が朝霧になって、
火の気配がなくなった頃、
そこには私1人以外は誰もいなかった…。


あるとすれば、
焼けてなくなってしまった家と、
どちらか分からなくなってしまった焼死体が2つと、
焼け残った後の匂いしかなかったのだ…。







私はそこで放心していた…。
何もなくなってしまった0の状態の私には成す術がなかったからだ。


しばらくして、私は戦争の被害を調査しに来た他の国の騎士団に身柄を保護された。
そしてその後、
国で私の親戚を探してもらい、
私は父方の親戚に引き取ってもらうことになった…。





父方の親戚は頑固で厳しい叔父さんが居た。
あまり面倒見が良い人ではなかったが、
とりあえず私の身を預かってくれると言うことだった。


最初の1年ぐらいは私は言葉が出なくて、
普通の生活に戻れる状態ではなかった…。
父と母を失った悲しみの方が大きくて、
とても人生に価値を見出せる状況ではなかったのだ…。


だが、1年後に私は少しだけ自分の生きる気力を取り戻した。
父と母が生きれなかった分、
自分が前を見て進んでいかなければならないと悟ったからだ。


家に身の置き所はなかったけれど、
迷惑がかからない程度には生きて行こうと決めて生きてきた。


そして更に9年後、
私の20歳の誕生日を前に、
その運命の日はやってきた…。














そう、


それは、


突然、


曾祖母が私の居候している親戚の叔父さんの家にやってきたのだ…。



曾祖母は私を見るなり優しく笑いかけて、
『大変だったね…。』と、
一言言った。


それから、幾日か叔父さんと長い話し合いの末、
私は曾祖母の家に行く事になったのだ…。











曾祖母の家はあの頃の私には随分と遠くにあるものだと感じた。
山を越えて、
国境を越えて、
幾つもの国を越えて、
たくさんの景色を見て、
最終的には砂漠を歩き続けたのだから…。


そして、着いた先には、
大豪邸とも言える大きな壁に囲まれたオアシスのような建物が建っていた…。


あの時の事を一言で表すなら『圧倒』の一言に限るだろう…。


曾祖母が言うには、
砂漠という土地を再利用する為にこの砂漠一体を買いきったと言っていた。
そして、ここに緑の生える土地を復興させることが夢なのだと語っていた。





ここは何十年近くものの時をかけて作った都市だと言っていた。
そこで曾祖母はずっと統治し続ける人間なのだと…。


曾祖母は歳を取っているはずなのに若く見える人だった。
それが不老不死なのだと知ったのは自分が20歳を過ぎた頃だったが…。













それから私はここを学園にする話を聞いて、
曾祖母の夢を継ぐ人物になる話を聞いた。


つまり、曾祖母亡き後は私がこの学園の理事長になるのだと…。


曾祖母は第一代の理事長として学園を支え、
交易分野にも幅広く活躍を始め、
第一代の生徒たちを迎え、
この学園も有名な所となって言った。


私はその過程で曾祖母に、
私も不老不死の血を受け継いでいる事を聞いた。


私が35歳になるまではずっと曾祖母の指導の元、
経済や政治におけること、
学園についてのこと、
常に思う信念と理念のこと、
そんなことをずっと教えられた。









学園はその間に完成形となり、
今の学園の姿にまでなった。


気付けば学園はこの世界の全ての要の部分のようになり、
経済の面においても、
政治の面においても、
トップとなっていたのだった…。


曾祖母がそれを全てった1人で築いたのだ…。


曾祖母は1人ではない、
多くの友人や知人や、
協力してくれた仲間が居たからこの学園を築けたのだと語ったが、
私にはやはり根本的にはこの学園を作る、
曾祖母の『思い』がこの学園を完成へと導いたのだと思った。










私が35歳になった時、
遂に学園の第2代理事長を継ぐ事となった…。


見た目は20歳のままだから全然オバサンくさくないけど、
やっぱり中身はオバサンなのかもしれない…。


でも、曾祖母が傍に居てくれたから私はお披露目の時、
緊張せずに挨拶することが出来た。


曾祖母は「よく出来たね。」、
っと言ってくれた。


私は褒めてくれた事がとても嬉しかった。
まるで、小さい頃父や母が私を褒めてくれた時のように…。


ただ…、その時の曾祖母の全てをやり終えたような顔が私は今でも忘れられない…。















その1年後、
私の予感は現実となった…。


曾祖母は全てを私に委ね終えると安らかに逝った…。






不老不死の曾祖母は、死ぬ事なく私の傍でこれからも支えてくれるのだろうと思っていた。


しかし、曾祖母は学園を作る際に土台となる砂漠を大地に戻す魔法を使うことにより、
体力が少しずつ衰える事となってしまったのだ。


古代の古い魔法は自分の身を滅ぼす物もある…。
リスクが大きい物は不老不死であろうと消滅を齎す場合もあるのだ…。


曾祖母は永久的な大地を造る変わりに、
その永久的な命を持って大地を作ることにしたのだ…。







周りは反対していたらしい…。
それでも、曾祖母は夢を諦めることはなく、
それすらも撥ね退けて学園を作ることにしたのだ…。


だから曾祖母は『私』という夢を継いでくれる『後継ぎ』を探していたのだ。


自分の夢をこれからも叶え続け、
誰よりも学園を愛し、
見守ってくれる人物を…。







曾祖母は亡くなる半年前ぐらいから体調が急激に変化した。
足が動かなくなり、
移動は全て浮遊術を使わなければならなかった。


2ヶ月後には魔法も衰えてきて、
車イスでの移動を余儀なくされるほどにまでなった…。


でも、笑顔を絶やさずに生徒と触れ合うことを忘れずに気丈に振舞っていた。


『常に生徒の為を思って行動する』


それが曾祖母の1つの信念でもあった。
だから、私は常に曾祖母の車イスを押して散歩に連れて行くことは絶やさなかった。






そして、亡くなる1ヶ月前…。
遂に曾祖母は起き上がる事も困難になった…。






曾祖母は亡くなる直前私に学園の私用の庭に行かないかと言った。
精一杯に元気を振り絞って曾祖母は車イスに乗り、
痛みに耐えながらも自分の力で移動すると言って車イスを押した。


庭に着いた時、曾祖母は『秋の匂いがするね。』と言った。


そうして優しく微笑んだ後、ゆっくり私に向き直って話し始めた。


私は今でもあの事を忘れる事はない…。








『アイル、良く聞いてね。』

 こんなおばあちゃんが言う事だから少し難しいかもしれないけど…。

 どうか、学園を永遠に護り続けてほしい…。

 私は貴方ならこの学園を愛してくれると思ったんだ。

 だからこそ、私は貴方にこの学園を託したい。



 私は大きな夢があった。

 生徒が楽しそうに笑って、

 才能と言う羽根を、自由に伸ばすことができて、

 良き友と巡りあい、

 様々な事を学び、

 より良い生活が送れる場所…。

 そんな場所が作りたかった…。



 命を賭してでも目指す理想があった…。

 その夢を貴方にしっかりと継いで欲しい…。



 だから、これからも学園を愛し、

 生徒1人1人を想い、

 信頼関係を築き、

 例え命を落とすことになっても学園を護り抜いて欲しい…。



 お願い出来るかしら?

 この学園を、

 生徒を、

 貴方の命がある限り、

 護り抜く事を…。』






私はもちろん、『はい』と答えた。
自分の命を賭してでも護り抜くと…。


曾祖母は嬉しそうに笑ってくれた。
まるで、幸福を感じ取るように…。


その後、突然曾祖母車イスから横に倒れ落ちた。


私は慌てて曾祖母に駆け寄って抱き起こした。
曾祖母は口の端から血を零していた。


私が医者を呼んでくると言って駆け出そうしたら曾祖母はそれを止めた。


『いいの…。

 私はもう後数分しか持たないから…。

 それよりもアイル…。

 この庭をシャウド君にあげてくれないかしら?

 手紙と一緒にここの鍵をあげて欲しいの…。



 それからね、

 私は貴方と出会えて本当に良かったと思っていたのよ?

 後継者を探さなければならないと思ったとき、

 娘はもう居ないから違う誰かを探さなければならないと思って、

 親戚関係の中から誰か選ぼうと思ったの、

 けど親戚の叔父のところに貴方が居ると聞いて、

 とても驚いたわ。

 あぁ…娘の子はまだ生きていたんだって…。

 戦火で行方不明になったと聞いていたからね…。

 最初はただ引き取って育てようかと

 迎えに行った時、本当にあの子に似ていて、

 真っ直ぐな瞳をしていて、

 でも純粋で、優しい心を持っていて、

 だから真っ先にその子ならこの学園を託すことが出来ると思ったわ…。

 結局、貴方には学園の話ばかりしか出来なかったけど、

 貴方と過ごした15年近く…、

 とても安らかな心で居られた…。



 ねぇアイル?

 どうか強い心を持った人になってね、

 他の国からこの学園を護れる、

 どんな物からも学園を護れる、

 強くて優しい心を持った人に…。



 あぁ…木から葉が落ちているわ…。

 それに少し寒い…。

 もうすぐ冬がやって来る証なのね…。

 でも、残念だわ…。

 今年のクリスマスは一緒に過ごす事が出来ないなんて…。

 ごめんなさいね…アイル………。』











曾祖母はそうして息を引き取った。
そして曾祖母はそのままゆっくりと灰となって行った…。


まるで、吸血鬼が朝日を浴びると灰となって死ぬように…。
自分の手からさらさらと曾祖母の遺灰は零れ落ちた…。


私はまるでそこに曾祖母が居るかのように拳を握り締めて自分を抱きこんだ。


涙が止まらなかった…。












曾祖母の葬式はとてつもなく壮大なものだった…。
学園の大講堂を会場として執り行われたが、
多くの人の涙と泣き声が響く、
とても…とても…悲しい葬式だった…。


学園の生徒や、卒業した生徒たち、他国の王や、貴族や、魔女たち…。
親戚に、曾祖母の友人に、お世話になったと言う人たち…。


それほどまでに曾祖母はたくさんの人に愛されていた…。


曾祖母は本当に偉大な人だったのだ…。
種族や、民族や、階級に捕らわれず、
たくさんの人に愛を注ぎ、
優しさと笑みを与えた曾祖母…。


その人が居なくなったことを悲しんでくれる人たち…。


私はこんな人の後を継ぐ…。
曾祖母の夢…。
理想、
信念、
その全てを継いで生きて行く…。






私にとって曾祖母は、母がいなくなった後の母であり、
人生の師であり、
尊敬に値する人であり、
子供のように夢を語り合う仲だった…。


私は曾祖母を永遠に忘れないだろう…。
そしていつも曾祖母が言った言葉を思い出す。


だからこそ、頑張ってこの学園をより良い物にしようと思えるのだから…。











その後、
私は曾祖母から渡された手紙と庭の鍵をシャウドくんに渡した。


シャウドくんは手紙をじっくりと読むとまるで片目から涙を流した…。


彼が何を思ったのか、曾祖母とはどんな風に話していたのかは分からない…。
だが、曾祖母が気に掛けると言うことは、
それだけに何か重いモノを抱えているという事なのだろう…。











それと、曾祖母の遺灰はこの学園の大地に撒くことにした…。
学園を好きな人だったから永遠に学園と供に居られるようにしたかったのだ…。


この学園と永遠に生きれるように…。
この大地を潤す、大地の女神『アース』のように…。




















今、私は相変わらず書類の整理に追われながら毎日を忙しく生きている。
学園の生徒のはしゃぎ声や、
街のざわめきが聞こえる場所で、
理事長として学園を支え続けている…。


私を支えてくれる秘書たちや、
今となっては仲の良い友人のような人物となったシャウドくんや、
口うるさくも遊びに来てくれるクラリスや、
裏部門のクセに表へ顔を出してくれるゼウスなどと供に…。


いつかこの身が滅びる日まで、
私はこの学園の為に曾祖母と同じように、
日々学園に身を捧げる…。


常に生徒の為にあれ。


そんな言葉のように…。
常に笑顔で、
常に生徒と触れ合い、
でものんびりと。


頑張り続けるのだ…。
まだまだ道は長いから、
焦らずゆっくりと、
自分にとっての第2の『母』となってくれた人の、
夢を少しずつ実現する為に…。










零へリセットされた事は、
人生の転落ではなく、
私にとっての第2の人生のスタートだった…。


想像を越えるほどの未来への……。


だから、

ありがとう…、

私の第2の『お母さん』……。



















サイドストーリー第1弾はアイル理事長のお話です。
まぁ、変なとこは端折ってます;
シャウドくん狂になるとことか、
自分の個人の楽しみにでっかいテーマパークみたいもの作っちゃうとことかはw(ぇ
まぁ、こんな感じでメインの話とは別に、
違う話も見せて行けたらいいなぁと思います。
文章がちょいと苦手な茶碗蒸さんのせいで、
ちょいとぐちゃになってるとこもありますが、
あんまり気にせんといて;;







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