君が好きだよ…

君の黒い髪も、

君の漆黒の瞳も、

白い肌も、

華奢な肢体も、

純粋な心も、

高らかな嬌声も、

恐怖と涙に歪む表情も、









呪われた黒い心臓も…









悪魔が欲する黒い血も…









愛している…

愛している…

アイシテイル…









お前を縛りたい…

自分だけのモノにしたい…









誰も見るな…

私だけを見ろ…












永遠にお前を縛り続ける…









お前を愛せるのは私だけだ…












Curse of the heart
〜黒の心臓〜














自分を支配する人影…
自分を拘束し続ける人影…

「嫌だ!!」と心が思った瞬間それが悪夢であったことが分かった。

そこにあるのは見慣れた天井…。
見慣れた部屋。
ほっとさせる香り。

荒い息がこの部屋の主人しかいないので響き渡る。
見てしまった悪夢に一瞬涙が出そうであった。
そしてちゃんとこれが現実であると確認する為に自分をしっかりと抱き締める。
何分か無音のままで心臓の音だけを聞きいった…。

大きく息を吐いて目を閉じてから漆黒の瞳をゆっくりと開けた。
光を最小限に取り込んだ部屋が朝であることを告げている。
そのことを理解したゼウスはゆっくりとベッドから降りた。

ベッドルームから出るとリビングを通って洗面所へと向かう。
洗面台で顔を洗うとタオルで顔を拭いた。
そして、鏡を見るとそこには嫌なモノがあるように思えた。
すぐに洗面台の棚を開けて1つの缶を取る。
その棚にはたくさんのワックスやらムースやらがあった。
前髪を上げるといつも人前で見せている自分になっている。

自分の髪が降りているところなど滅多に見せたことはない。
友達や親友にもあまり見せたことはない…。
いや、むしろいないかもしれない…。
人前で髪を降ろすなどまずありえない…。
たとえ雨が降ってきたとしても顔さえ見せないだろう。
その理由さえ話した事もない…。






…シャウド…クラリス…。






あの二人が学園を去ってからもう60年にもなる…。
歳を摂らない不老不死の自分には20の時ですでに時も止まってしまった…。
だから60年なんてモノは長いようで短いものだった…。

だが、心はずっと1人きりであった…。

(俺はその間にまたたくさんのトラウマと傷を負ってしまった…。)

けれど、そんなことは自分以外には知らないこと…。

何だかむしゃくしゃして1人では居たくなくてゼウスは出かけようと思った。
その為にクローゼットへ向かいハンガーから適当に服を選ぶ。
しかし、そのクローゼットにある服は全て黒いものばかり…。

ゼウスは黒い長袖のYシャツに黒いズボンを着た。
全身を黒い装いにしたゼウスは、
髪も目も黒いのでまさに全てが黒い状態にあった。

それは過去を引き摺っている証…。
過去を拭い去れない証…。

そんなこと自分でも解っているが別の服を着ることはどうしてもできなかった。
激しい激痛と嘔吐に見舞われそうになって、
何度も挫折してきたのだ…。
それを今更どうしようもできないと諦めきっているからかもしれない…。

テーブルに置いてある吸いなれたタバコと携帯、それとカードを持つと部屋から出て行った。









とりあえずタバコを吸いたいと思って自分がここぞと気に入っている場所へと向かった。
そこは、アカデミーの学園と市街が望める小さなテラスである。
まぁ、テラスと言っても人が1人余裕をちょっと持って入られる程度の場所なので、
テーブルやイスがあるわけでもないし、
風が入ってくるので冬は到底長時間も居られる場所ではない。
しかし、ここが一番人気もなく、のんびりとした時間を過ごせるのでゼウスは好きなのだ。
昔、シャウドにタバコを怒られて吸う場所がなくて困っていた時に偶然発見した場所なのだが…。

そこで呆然と考えごとをしていた。

突然、忽然と姿を消したシャウド…。
忽然と姿を消したシャウドに続いて実家に帰ると一言告げて居なくなったクラリス…。

信頼し、喜びを分かちあった仲であったのに、
それは儚くも脆く一瞬で崩れ去った…。
あれから人を信用した記憶はない…。

クラリスが去った理由はよく解っていた。
『恋人』であるシャウドが突然居なくなったことできっと意味がなくなってしまったのだと思う。
自分には引き止めることも何もできなかった…。
ただ何も言えずに見送ってしまった…。

何だかとても悲しくなってきて柄にもなく泣いてしまった。
もうあれから随分経って泣くことなどないと思っていたのに…。
しばらく泣いて、泣いて、泣いて…

心臓にちくりと痛みが走って…
咳をゴホゴホと吐いた。
そして、そのうち血を吐いてしまって…。
自分の身体に起こっている病に現実を思わせる…。

吐いて広がった血の色は…






『黒い』色……






生まれてからずっと持っている黒い心臓…。
何故自分がこんなものを持っているのかは未だに解らない…。
ただ、普通の人とは全然違うマガイものであることは確かである…。

だから小さい頃から病気にかかっても病院行ったことなどない。
この心臓を解明できる医者などが居るとは思わないから…。
そして常人が見ても明らかにおかしいものであるから…。

そういえば、この前もここで同じコトがあった。
1ヶ月前のことだっただろうか?
その日はとても風が強い日だった……。




外の風はよくないかもなどと思い、ゼウスはテラスから立ち去った。

それからすぐのことである。
廊下をすれ違った人達がヤケに何か喜んでいた。
理由は全然分からなくて、
でも、通り過ぎる人々は何かに向かって歩いているようだった。

1人向こうから来る頬を染めた女の子に何があったのか尋ねてみた。

「何かあったのか?」

女の子は自分に対して顔を更に紅くしたが震える声でこう答えた。






『シャウドさんが帰って来た…』…と…。






気付けば自分は走り出していた。
女の子はどうやらカフェラウンジのテラスに居るようだと言ったのでそこへ迷わず向かった。
心の中で『まさか!?』と否定している自分が居た。
しかし、何故か胸がドキドキとしている。

シャウドが帰って来た時に自分は居なかった。
出張や仕事に追われそんな話題も耳にすることはなかったから…。
つい昨日ばかしに仕事が終わって、今日やっとオフがもらえたぐらいであるから…。

昔の友の帰還に喜んで走るスピードも自然と早くなっていた。

カフェの入り口で一度立ち止まって呼吸を整えてから扉を開ける。
たくさんの生徒たちで賑わっていて多少探すのが困難かと思いきや、
大抵座っている場所が決まっていたシャウドを探すのは簡単だった。

向こうとも自然と目があった。
だけど、様子が多少変である。
何だか顔が真っ青なような気がした。

「シャウド?」

そう言葉を紡ぐと向こうも弾けたようにはっとしている。
だけどすぐに表情はいつもの感じに戻って、

「久しぶりだね。ゼウス。」

と、いう言葉を言った。
気のせいかな?と思ってとりあえず本当に帰ってきていたことに喜びが溢れる。

「…久しぶり。帰って来たって、本当だったんだ?」
「嬉しい?」

すぐにそう返されて、友の帰りを喜ばない人が居るだろうかと考えた。
だからとても嬉しそうに、思いっきりの笑顔で、

「もちろん。」

と答えた。
だけど、何でだろうか?とても胸騒ぎがしていた…。












その後、夕刻までテラスでいろいろな話をして、
開放時間を過ぎてしまってからは自分の部屋でシャウドと話をしていた。
そしてそろそろお開きにしようと話を切り出して、立ち上がって見送ろうとした。
時刻はもう真夜中に近かった…。

廊下へと促すと、灯りはすでに消えていた。
当然であろう…生徒たちの消灯時間はもう過ぎていたのだから。
シャウドにお休みと一言言って、軽く頭を撫でてやった。

しかし、シャウドが帰る気配は一向にない。
それどころか、玄関を一歩踏み出したところで止まってしまっていた。
暗い道が怖いのだろうか?とも思ったが、
光がないところで仕事をしていたりもするものだからそんなことはないだろうと思った。
だが、何故かとても心配だった。

「如何したんだシャウド?」

せめて一言尋ねてみようと思って声をかけたが…。
次の瞬間、自分の視界が反転した。

突然の出来事にふいを付かれた為受け身を取ることもできず、
身軽なシャウドを支えることも出来ず…
気付けば自分の部屋の床に二人分の重みごと後頭部と背中を叩きつけていた。

多少苦い顔をしながら打った頭を撫でつつ片手でシャウドを起こす。
他にも何ヶ所か打ちつけた身体が痛かったが、
突然飛びついてきたシャウドのことも気になって先にシャウドのことを心配した。

「イッッ…一体如何したんだよ?」

しかし、すぐに答えは分かった…いや…分かっていたのかもしれない…。
心臓はゆっくりだがとくん、とくんと音を立てている。
シャウドは相変わらず俯いたまま口を開こうとしない。
多少呆れて軽く溜息をついてしまった。

「本当に如何したんだ?」

返答は返ってこないと思って軽く口を出た言葉。
その言葉に返事が返ってくる。

「…………っ」

だが何を言っているのか全く聞き取れない。

「ん?何?」

かなり小さく呟いている。
全然聞き取れなくて仕方ないから耳を近づけることにしようと思った。
そして、顔を覗き込んだ時それは起こった…起こってしまった…。
自分はただ首を傾げて覗き込もうと思っただけであったのに…。

「……え?」

吃驚して固まった…。
シャウドからの触れるだけの軽い『キス』…。
しかし、シャウドの甘い香りの匂いが離れた瞬間自分は更に信じられないものを見た。

シャウドが泣いているのである…。
すぐ傍で…、目の前で…、

「…寂しい…寂しいよ…。」
「…!?」

驚きの一言である。
今度ははっきりと聞こえるように言われた言葉…。
その理由はよく分かる。
帰ってきた自分に突きつけられたのはきっと恋人が居なかったことだろうから…。

シャウドから流れる涙と辛いほどの言葉…。
自分には何ができる?
クラリスが居ない分何が出来る?
こんなに自分の中に強い力を持った少年は、心はとても儚くて、脆くて…。
恋人を純に欲しているのであろう…。






だけど、その反面心の中にはとても強い警戒信号が鳴り響いていた。
自分は気付いて居たのかもしれない…。
シャウドの企みも、何もかも…。
きっとこんな出来事は一時の儚い夢にしかならないだろう…。
自分など、クラリスという『本物』の恋人が戻ってくるまでの遊びにしか過ぎないだろう…。
きっとクラリスを戻させる為の材料でしかないだろう…。
利用されて終わるだけなのかもしれない…。






しかし、ここぞと胸の中にしまっていた思いが蘇ってしまう…。
シャウドに抱いた淡い恋心…。
出逢った時にいつか親友二人が付き合うことなど解っていた。
だから諦めていたこの恋心…。
邪な欲望が自分を掻きたてる…。

ほんの短い間だけでもいい…。
自分が傷ついてしまうことも分かっている…。
それでも、この思いがほんの数秒でも叶うならばと…。

そして、嘘でも純粋に泣いている自分より5つもしたの少年に…、
涙を止める術が与えられるならばと…。

自分は堕ちていった…。



「…泣くな。俺が…俺が傍に居るから」

細い肩をしっかりと抱き締める…。

「……ゼウス…。」

顔を持ち上げて濡れた瞳にそっと唇を当てて涙を拭ってやる。
そのままシャウドを見つめて…、
さっきのような軽いキスではなく、
恋人同士がする深い…深い口付けを与えた…。









自分が堕ちることも知りながら、

闇に心を捕らわれて…、

引き返せない道へと歩き出す…。

この時から始まっていたのかもしれない…。

自分が壊れる旋律を…。






解っていて飛び込んでしまった自分だから……。




















だから…、『悲劇』いう名の物語はここから始まったのかもしれない………


















なんつーか、暗いお話書きました。
つまり、なんと言うか、
ゼウスは分かっていて飛び込んだということなんですよ。
シャウドが利用すると分かっていてさ…。
ここから話はまた進んで行きますよ〜!!
楽しんでください??
って言えるのかな…??
まぁ、オリジナルストーリーの世界にハマって欲しいだけです…。





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