彼の気配を感じた……


わかる…


彼だとわかる…


だって…


僕が愛した人だから


心から望んだ人だから


狂おしい程に…


まるで禁断の林檎のように


欲してはならないのに


欲しくなる林檎のように…













Welcome back
〜おかえり〜






シャウドは動揺を押し殺すように書類を見つめた。
帰ってきた事に内心愛しい思いと、
深い束縛心が葛藤するようだった。


(クラリスの気配が学園に入った…。)


その気配のみがはっきりと今のシャウドの心が捕らえている。


会いたい、
会いたい、
会いたい。


でもそれに反して、
会ってはいけないとも心が警告する。


会ったらまた束縛してしまう、
クラリスを手の内にしまい込みたくなる。


怖い…。






とりあえず今は、
仕事をしなければならないのという自分の意志が強く働いている為、
駆け出しそうになる自分を抑えられていた。


仕事を放り出してはいけない。


自分の性格は至って真面目だ。
自分の力で出来る事ならいくらでもその手を差し出す。
それがシャウドという人間である。


だからこそ、仕事を放ってまで行くという事にはならない。


ただ、仕事が終わってしまったらが怖い…。
仕事という枷が取れてしまえば、
自分は真っ先に会いに行くと思うから…。


クラリスに会ったら何を話そう?


今までのこと?
何してたの?
どうして実家に帰ったの?
学園に居るって約束だったはずでしょ?
僕の事今でも好き?
僕が今まで通り束縛しても平気?


あぁ、仕事をしているというのに頭の中はクラリスの事ばかり…。






早く君に…会いたい…。

















その頃、クラリスは学園への手続きを済ませ、
理事長室へと足を運ぶ途中だった…。


「師匠、理事長室になんのご用なんですか?」

「あぁ、アイルに挨拶しに行くんだ。久しぶりだしな、挨拶しないとあいつ怒るから。」


クラリスは昔を思い出して笑った。
光一はその姿を見て、理事長とは友達のように親しかったんだろうなと思った。






理事長室をノックするとアイルの返事が返ってくる。
扉を開けると仕事の途中なのかパソコンに向かって何か真剣に打ち込んでいるようだった。


「アイル、戻って来たんで挨拶しにきたぞ。」

「あら、クラリス。久しぶりね?元気だった?」


アイルは顔を上げてクラリスに視線を向ける。
笑顔なのにどこか切れ気味だ…。


「なんだ。そのあからさまに嫌そうな態度は…。」


クラリスが皮肉って言ってやると、
アイルは笑顔を引き攣らせた。


「あら?当たり前でしょ?あんたはあたしのシャウドくんとものすご〜く仲が良かったから天敵なんだもの。」


さらっと敵発言を言うアイルに光一は驚いた。
でも『シャウド』というキーワードが頭を過ぎった。


(シャウドさん…って世界的に有名なヘブン家の跡取りで、世界でもっとも強い人で…、
 それで師匠の元恋人さんって人だよね…。)


しかし、光一は分かっている。
クラリスはまだシャウドを好きだと言うことを…。


(僕って微妙な立場〜;もしシャウドさんに会ったらやっぱ凄い憎まれるだろうな…。)


光一がそんな事を考えていると、
アイルが光一の方に視線を寄せているのに気付いた。


「あなた…、新入生の光一くん?」

「あ、は…はい!!新しくこの学園でお世話になります!!師匠の1番弟子の光一です!!」


慌てて挨拶すると、アイルはにっこりと笑った。


「そんなに緊張しなくていいのよ?」


そして、立ち上がって光一とクラリスの方へ歩み寄った。


「これからはここが貴方のお家と思って楽しんで毎日を過ごしてねw」


アイルが手を差し出すと、
光一も慌てて手を差し出して握手を交わした。


「あんたにしては良い弟子持ったわね。」

「可愛い奴だろ?」


先ほどの険悪な雰囲気はどこへやらといった感じで和み始めた。


「部屋はクラリスの部屋の近くにすればいいかな?」

「そうだな。一応医療部門所属だし、出来れば面倒見てやりたいからな。」

「分かったは今日中に手配済ますから、とりあえず今日はしばらくあんたの部屋に居てもらっていい?」

「あぁ、いいさ。手配が済んだら俺の部屋にメッセージをくれ。」

「了解。」






お互いがテキパキと手配をしている姿を見ていると、
何だか驚きと言った感じだ。
さっきまであんなに険悪だったのに、
今は雰囲気がとても良い。


普段険悪なのはシャウドが絡むからなのかと、
光一は理解した。
すると、またアイルは光一の方に視線を戻す。


「光一くん。」

「は、はい。」

「あなた確か魔法部門にも所属予定だから魔法部門の場所は追って地図を手配した部屋に送っておくわね、
 後でクラリスに部屋の使い方を聞いた時にでも確認しておいてくれる?」

「わ、わかりました。」











アイルはまたにっこりと笑うと、
今度は一変して少しだけ悲しそうな表情になった。
話がまた変わるようだった…。
そして、ゆっくりと話始める。


「そういえば、シャウドくん…帰ってきてるわよ…。」

「…あぁ、知ってる…。」

「そう…。」


今度は部屋の雰囲気さえも飲み込むように空気が沈む…。
先ほどの穏やかな感じはない…。


「やっぱりシャウドくんに呼ばれて帰ってきたのね?」

「…そうだ。」


多分、このやり取りは昔を知っているからこそ分かることなのだろう…。
多少なりとも事情は知っているが、
それほど深く知っている訳ではないので、
なんだか光一は少し居辛かった。


「シャウドくんが学園を出て行ったのって、やっぱ全部門を自分が1位ってのはやっぱり…ってのもあったのかもだけど、
 クラリスをこのままだと束縛し過ぎてしまうって言うのもあったと思う…。」


初めて聞く話に光一は驚く。
だが、2人の話は続く…。


「今はアカデミー部門っていう別枠の部門をシャウドくんが学園を出た後に創設したのよ?」

「そうなのか…。それなら居場所が出来てあいつには良かったかもな。」


クラリスはどこか遠いところを見ている。
アイルはクラリスの顔を見れずに下を向いている。


「昔みたいに仲良くしてあげてね?」

「あぁ、もちろん。ただ、学園に迷惑がかからないようには絶対するから安心してくれ。」

「…うん。」














2人は少し話をした後、
理事長室を去った。


「光一、知らない事ばかりで驚いただろう…。」

「はい…。シャウドさん学園を去ってらっしゃったんですね。」

「あぁ、それで俺は実家に戻って居たんだ…。」

「そうだったんですか…。」


廊下を歩きながら、少しずつ言葉を交わす…。


「あの、師匠…。」

「ん?なんだ?」

「今でもその…シャウドさんが好きですか?」

「……。」

「……。


2人の間に沈黙が続く…。
だが、クラリスが重い口を開いた。


「あぁ、好きだよ。多分凄く深く愛してると思う…。」

「……。」

「だけど、お前が好きだって言うのも本当だ。遊びで付き合おうと思ったわけじゃない。」

「……。」

「すまない…。今まで黙っていて…。」






クラリスは申し訳なさそうに言った。
光一は一度深く溜め息を吐いた。


「いいんです。なんとなく分かっていました。」

「え?」

「師匠がシャウドさんの話する時、いつも好きなんだなって思ってましたから、そんなに傷付きません。」

「…光…。」

「でも、今は別れる気はないです。」

「?」

「だってシャウドさんとは今別れてるってことなんでしょ?だったら別に別れる必要性はないです。
 それに師匠が今、遊びで付き合ったわけじゃないって言ってくれましたから。」


光一がにっこりと笑うと、
クラリスは強気だなと冷や汗である。


「僕、シャウドさんなんかに負けません!!」

「ぇ?;」

「それにシャウドさんが今フリーとは限らないし、もしも何かあったら僕が師匠を守りますからw」


そう言って腕に引っ付いて来た光一をクラリスはとても愛しく思った。
こいつは強い奴だと改めて思わされる。
その純粋な強さにクラリスは多少なりとも尊敬を覚えているぐらいだ。


「お互い頑張りましょう。学園生活も恋愛も。」


それが今光一に言える精一杯の言葉だった。











本当はとても辛いけれど、
でも、自分を幼い時から育ててくれた師匠が悲しい顔をしているのは嫌だから…。


その思いだけを自分の糧に、
今の関係を崩さないようにしたかった。


恋人とかの肩書きはいい…。


ただ師匠が僕を捨てないでいてくれれば…。

















2人は施設を見て回る為、
医療病棟へと移った。


「ここが、医療病棟な。」

「うわぁ、大きいですね。」


白を基調とした大きな医療病棟は外から見ればまるでビルのようである。
ここで医療部門を統括していたと言えば、
普通の医療企業では院長のようなものである。


「師匠はここで1番偉い地位にいるんですよね?」

「まぁ、偉いと言ってもランクの問題だよ。」


しかし、光一は学園の入学説明の際に聞いた事がある。
自分の入る医療部門についての状態を…。






医療部門は分野別に分かれる科もあるが、
その全てを兼ね備えている人物が医療部門ランクに入るメンバーだと聞いた。
中でもダントツでその能力を備えているのが、
師匠であるクラリスだという…。


医療部門は外来患者も見ているし、
もちろんVIPクラスの客も取り扱う。
一番は学園の生徒を見るというのが目的である。


中でもトップ3に入るメンバーは特別医療塔の、
まるで秘密の花園のようなサロン塔に居るという…。
予約も大量に入っているし、
そのトップ3に見てもらえるのは超VIPのみだと…。


ただし、理事長の意思により、
学園の生徒にのみ、
予約を入れれば見てもらえるという制度を設けている。


と、言ってもクラリスたちトップ3の予定が空いていればの話だが…。
しかし、難易度が高く、他の生徒たちには見れない場合のみ、
緊急患者の処置を行うという別の規則も用意されている。


医療部門の掲げている目標としては、
誰一人学園の処置に置いて死なせないというのがある。
その為に設けられた規則である。






その事を考えると、
やはりクラリスの実力というのは凄いものだと、
光一は自覚した。


その人の弟子である以上、
恥は絶対に欠かせないとその時改めて決断したほどだ。


「師匠はそう言っても僕にはやはり凄いとしか思えません…。」

「そうか?」

「はい。僕、精一杯師匠について行きますからよろしくお願いします。」


そう言うと、光一はスタスタと歩き始めた。
実際にどういう施設がどこにあるのか覚えて置かなければ、
いざという時に対処出来ないと思うから…。


しかし、クラリスと歩き回ると周りの視線が痛い…;
クラリスにはぺこぺこと頭を皆下げるのだが、
あの子は誰だ?と言った顔で視線が刺さるからである。


当の視線を集めている光一に比べ、
好奇な視線で見られているクラリスはなんのそのと言った感じで光一に丁寧に様々な事を教えている。
そんな視線よりも光一に教える事に真剣だからだ。


「光一、ここの施設は心臓での手術に使うことがあるからよく覚えておけよ?」


その凛々しい顔に女の人たちの視線が釘付けにされているとも知らずに…。






しかし、周りの人たちからすれば、
光一は実は女の子のように見られていた…。


(あの女の子は何者?)

(クラリス様の新しい恋人?)

(クラリス様のお顔を間近で見られるなんてなんて羨ましい…。)


様々な思案はあるものの、
やはり光一は女の子にしか見られていない。


男にしては細身で、
筋肉が全然ないように見えるし、
目がぱっちりと可愛く子顔。
髪も長く、
雰囲気も柔らかい…。




どう見ても女?




そんな印象が回りの印象にあり、
しかも、医療部門NO,1のクラリスが連れて歩いているので、
周囲の目はクラリスから光一に移ると言う訳だ…。


そんな空気をわかる筈もなく。
2人は施設を一通り回った後、
お披露目にも取られなくない行動をして去って行ったのだった。












部屋に戻るとアイルからの連絡事項が届いていた。
光一の部屋をクラリスの近くに取ったと言う知らせだ。


つまり、特別医療塔の住人たちの住居部分に部屋が設けられたという事だ。
部屋の位置はクラリスの部屋がある階の空き部屋。
実質クラリスしか居なかった階なので、
空き部屋はあるにはあった。
ので、そこを光一の部屋に当てたという内容が書かれていた。


「本当に良いんですかね?僕この階の部屋一部屋もらっちゃって…。」

「お前を一般の医療部門生の部屋に入れるのは些か不服だしな。」


そう言われると何だか照れてしまう。
特別な扱いを受ける事はあまり心地良いものではないけれど、
クラリスに大切に扱われているという事が何よりも嬉しいからだ。


難なく部屋の手配も取れ、
荷物搬送もされるということで、
光一はこれからの学園での生活がより楽しみなものになってきた。


明日からは自分も医療部門の一員として、
また魔法部門の一員として学べる事を誇りに…。






















時を同じく、
ゼウスは明かりもつけずに部屋のソファーに座っていた。


(クラリス…帰ってきたのか…。)


自分の恐れていた事が遂に現実のものとなる日。


(何だか…更に複雑に抉れる気がする…。)


危うい関係を保ちながら、
友情という輪で繋がっていたトライアングル…。


それが、音も立てずに静かに亀裂が入り、
軋み始めている…。


(シャウド…仕事終わったら会いに行くんだろうな…。)


自分よりも愛している人、
満たされたいの願う相手、
掴みたいと思う相手、
それが『クラリス』…。


ゼウスは1人悲しんでいた…。


『高望み』


その言葉に尽きる、
シャウドと自分の関係…。


自分がたまたま棚からぼたもちして拾った『恋人』の地位。


それがあっさりとクラリスの元に帰っていく…。
きっとそんな結果に終わる…。


でも、なんだろうか?この嫌な予感は…。
それとは別に何か嫌な事が起こる予感がしている…。


自分を利用して取り戻す予定のクラリスと、
友達に戻れるかどうかもう分からない俺たち…。


この先、
まだ二転三転何かが起こる気がしていた…。

























ほのぼのしているようで、
なんかシリアス…。
ついでにやっぱり話が上手くまとまらない茶碗蒸…orz
気持ちが先走っております…;;;
言葉の選択が難しい…。
何をどう展開したら上手く伝わるんでしょうか…。
とりあえず次回の作品をお楽しみあれw






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