朝、目が覚めると隣に暖かい温もりがあった…。
それは自分が手に入れた『愛しい人』である。


この幸福はいつまで続くのだろう…。


そう、思いながら隣ですやすやと寝息を立てているシャウドの顔を見つめた…。
心のうちはどこにあるのかもわからないが、


『どうか、この幸福が一生であって欲しい…』


そんな願いは叶うはずもないだろうと割り切っている自分…。
期限付きの『愛』であってもそれに縋った自分。


きっとこの幸せが続くのはもって数ヶ月であろう…。





This very day
〜今日という今日〜






60年間という日々は俺の心にたくさんの傷を負わせていた…。
きっとシャウドやもう1人の親友であるクラリスもきっと何かあったのだろう…。


しかし…きっと『孤独』という言葉に関しては自分が1番理解出来るものである…。
その穴を帰ってきたシャウドに求めた自分も自分だろうか…。


きっとシャウドはしばらく経てば親友に手紙の1つでも書くのだろうか…?
自分を餌にしてきっと誘き出すに違いないだろう。
それはそれで一向に構わない。
自分が傷付く代償は、シャウドと付き合う時点で分かっていたことだ。
ならばそれをあえて受け止めなければならないのも仕方あるまい。


とりあえずはこの今手にした『幸福』と言う名の『思い出』に浸るとしよう…。






そういえば2人は俺を騙していたつもりだろうが、
俺が2人が付き合っていることを気付いているのだろうか?
騙されているフリをすれば1番いいのかもしれない…。


シャウドは心からクラリスを渇望しているのだろう…。
それは貪欲なほどにクラリスを縛り付ける…。
クラリスがいなくなったことはシャウドには予想外の出来事だったろうがな。









いつまでもシャウドを眺めているだけでは今日を過ごせないことをゼウスは思い、
ベッドから降りて洗面台に向かう事にした。


顔を洗い、髪を上げ、朝食の準備に取り掛かる。
あらかた朝食の準備が終わると、シャウドが部屋から目を擦りながら出てきた。


「おはよう、シャウド。昨日はよく眠れたか?」


視線をこっちにやりながらシャウドは答える。


「うん…眠れたよ…。」


まだ少し眠気が残っているようだ。
こっちにおいでと手招きをして食卓に座る事を促した。
テーブルの上には焼いた食パンと珈琲、目玉焼きとサラダが置いてあった。


「これが食べ終わったらアイルんとこ行けよ?今日から仕事あるんだろ?」

「うん。新しい部屋の片付けもしないといけないからね。」


そういえば、シャウドは新しい部屋を与えられたんだっけか…。
たしか…


「シャウド中央棟の15階フロア丸ごともらったんだっけか?」

「うん。」


さすがにアカデミー部門に配属された学園人気NO1の男だけはある…。
アイルのお気に入りともあって特別扱いのランクはSS級だ。






アカデミー部門はシャウドが学園を去った後、表裏全部門を制覇した伝説から生まれた。
アイルがいつシャウドが帰って来てもどの部門に戻るか迷わないように…。


アカデミー部門に入れる条件としては、全部門の制覇が条件である。
その特権としては、まずは収入の額が半端ではないほどにもらえること。
図書館の国宝または謁見できない本が入っている特別図書館の入場許可。
部屋が丸ごと1フロア与えられる事。
などなど…
他にもたくさん優遇される条件がある。


これは先代理事長がアイルに引き継いだ後のまだ死去する前、
シャウドの実力を見た上でアイルにこのようにするよう言ってこの世を逝かれたのだ。


だからシャウドは全てにおいて優遇される権利を有している。
しかし、仕事の量は半端ないと聞いた。


各国のお偉方がシャウドなら失敗せずに仕事をこなしてくれると頼みこんでくるらしい…。
アイルも他の普通の専門分野の部門たちに任せられるものの場合はそちらに回すように交渉し、手配もするようだ。


まぁ、俺の仕事から見たら天と地ほどある差があるようだ。
仕事の内容も大変なものばかりのSSランクの仕事が多い。
戦争を止めに行ったりもしなければならないとも聞く。
たとえば戦争で無駄な命が流された場合それを蘇生するのもシャウドの仕事だ。


俺は蘇生薬や匿名で作るよう頼まれた仕事、または医療部門への薬品提供程度しかしたことがないからわからないが、
それがどれほど辛く、苦しく、忙しいものなのかはわかるつもりだ。









シャウドは朝食を食べた後、部屋から出て行った。
俺も自分の仕事をしなければ…。


そう思って、研究所の入り口で白衣を着て中へと入った。









シャウドは部屋を出た後、溜め息を吐いた。
このままゼウスを傷つけるようなことをしてもよいのかと…。


しかし、後戻りは出来ない。
いや、したくない。


本当に渇望する相手を手に入れるまでは、
利用するだけ利用してやるのだ…。


そう考えている自分にまた苦しくなる。


本当は傷つけたくなんかない…。
誰か自分を止めてくれと…。






理事長室の前に着いた時、
そんなことを考えるのはもう無くなっていた。


この先に会わなければならない人がいるからだ。
ドアを軽くノックして部屋の中に入る。


「失礼します。」

「いらっしゃい。シャウドくん。」


大きな椅子に腰掛けた髪の長い綺麗な女性が座っている。
見た目は20歳ぐらいの女性である。


しかし、次の瞬間彼女の凛々しい姿は消えた。


「シャウドくんwおはよう〜!!!!!!!!」


いきなり女性はシャウドに飛びついた。


「アイル;;ちょっと苦しいんだけど…。」


咽そうになったのを見てアイルは抱きしめていた腕をすぐに解いた。


「ごめん、ごめん。シャウド君がこれからもまた毎日見れると思うと1ヶ月経った今でも嬉しくて♪」


実はこの人、実年齢は100歳のおばあちゃん…;;
彼女は20歳で不老不死となって年齢はそこでカンストを起こしているのである。


しかし、実力派な学園の理事長であるのもまた確かな事実である。
その見目の麗しさは世界に轟くほどの美しさで、
各国のお偉いさんも彼女の前では骨抜きとも噂されるほどである。
そして、彼女こそがこの世界をある意味牛耳っている人物であるのも確かだ…。


「アイル、仕事の件で伺いに来たんだけど?;」

「あぁ、そうだったわね。秘書が書類を向こうに揃えてるからそこから隣の秘書室に入ってくれる?」


そう言われて、隣の秘書室に入るが相変わらずの凄さである。
デスクが軒並みずっと並んでいて、秘書が100人近くデスクの立体型パソコンに向かって作業をしている。


「すいません。書類を取りに来たシャウドですけど…。」


その言葉に秘書たちは一斉に顔上げて黄色い悲鳴をあげる。


(嘘!?シャウドさん!?)

(相変わらずカッコイイw)

(あら、私は理事長派よ?)


そんな感じでみんなガヤガヤとざわついている。
その中で1人確か理事長ゾッコンの秘書が山積みの書類を運んできた。


「今日の分はこれです。」


相変わらずの凄い量である。
しかし、それを1日でこなす事は容易い。
シャウドは笑顔で受け取り、理事長室に戻った。


「アイル、書類はもらったからもう戻るね。」

「えぇ〜。もう帰っちゃうの?」


机に肘を突きながらアイルは不服そうだった。


「明日もまた来るよ。」


その一言でアイルの顔は笑顔になった。


「うんw明日も待ってるね。」


そうして部屋を出て行った。






部屋に書類を魔法で転送し、お気に入りのテラスへと向かう。
そしていつものように挽き立ての珈琲を注文した。


『ドドドドドドドドドッ!!!』


もの凄い足音がしてその後にドアが壊れるぐらいの勢いがする音がした。

『バン!!!!!!!!!!』

「シャウちゃん!!!!!!!!!!!!!!!」


次の瞬間、シャウドはそのテラスに飛び込んできた人物に押し倒されるはめになった。


「イテテテ…;;」


自分をそう呼ぶ人物は1人しか思い当たらないのですぐにその名前を呼ぶ。


「萩…;;痛いよ…。ってか、お店を壊す勢いで入ってきちゃ駄目だよ…。」

「えへへw久しぶりにシャウちゃん帰って来たって聞いたから萩も挨拶しに行かなきゃって思ってさ♪走って来ちゃったw」


この子は『魔佐雪 萩』性別は可愛らしい女の子。
裏部門の料理部門で1位、裁縫部門で2位、陰陽術部門で1位の凄腕札使いである。
趣味は廊下を走り回ること、裏部門にしては珍しいタイプかな。


そして、1番に拘っていることは人を『ちゃん』付けの呼称で呼ぶことである。


小さい頃のトラウマなのかは不明だが、ちゃん付け意外では人を呼ぶことを嫌がっている。


「とりあえず、お隣にどうぞ?」

「ありがとうw」


椅子を元に戻し、お互いに飲み物を飲みながら話し合うことにした。


「シャウちゃん元気だった?」

「ん?元気だったよ?」

「そっか。萩も元気だったよwあれからまた料理の腕も上がったからまたお菓子作ってあげるねw」

「うん、ありがとう。」


萩の元気の良さには時たま尊敬を覚える。
純粋で穢れを知らないような感じがして、たまに自分が励まされる時もある。
自分とは正反対な感じもする…。


しかし、彼女は自分の過去を語ったことはない。
むしろ、彼女がどういう経緯でこの学園に入るに至ったかも知らない。
ただ、知っているのは彼女は誰かに連れられてこの学園に来たということだけだ。
彼女は不老不死なので学園創設時からこの学園に存在している。
アイルに事情を聞いてもアイルは知らないと言っていた。
多分、自分が思うに前理事長ならその出来事を知っていたに違いない。


自分がそんなことを考えていると萩が顔を覗きこんできた。


「シャウちゃん何かお悩み事ですか?」

「いや?違うよ?なんでそう思ったの?」

「お顔の表情が暗かったからだよ。それとは別のことで何かあった?」


彼女は鋭い。
純粋なだけに人の変化にもすぐに気付く。
きっと自分のドロドロした部分も多少は感じているのかもしれない。
けれども、自分はそんなところを片鱗も見せる気は無い。






僕を奥深く知っているのは君だけだ。
愛情を上げたいとも思うのも、
全てを奪ってしまいたいと思うのも、
全てを受け止めてくれるのも、
弱みを見せられるのも、
僕には君だけなんだ…。


『早く帰ってきて欲しい…。ゼウスを傷つけてしまう前に……。」






余計暗い表情になった事に萩は戸惑ってしまっていた。


「シャウちゃん?暗い表情をしていると幸せが寄ってこないよ?」


そう言われてはっとした。


「ごめん。ちょっといろいろと考え事をしていただけなんだ…。」

「そぉ?あんまり考え事していると眉間に皺が寄るらしいから気を付けてね?」


微笑みで返すと萩も安心したようだった。






しばらくまた他愛も無い話をした後、テラスで別れた。


こんな空気は久しぶりだった。
これからもこんな平和な学園生活を送っていくのも悪くないとも思った。


しかし、やはり君がこの場所に欠けているのが嫌だ。
寂しいよ…。


例え学園生活が楽しくても、
心はいつまでも満たされないままでいる。


君だけがその隙間を埋めることができるのだ…。
今日という今日をこれからも過ごしていくのは容易い。


けれど、君の変わりになれる人は1人もいないのだ。
ゼウスは友人としては好きだ。
今も多少は本気で好きの部分もある。
でも、君ほどの愛情はないんだ…。


君への愛だけは誰にも、


誰にも埋めることなど出来ないのだ…。






早く、早く帰ってきて…。
君の親友を壊す前に…。
彼の心を傷つける前に…。






今回はシャウドの学園生活復活を描きました。
こんな感じで人に囲まれながらシャウドは生活を送っていきます。
しかし、『例の彼』はいつ帰ってくるのでしょう?






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