手紙が届いた…

小さな小鳥が持ってきた不吉の予兆…

文面には見慣れた字…

愛しいあいつの丁寧に書かれた字…



その文面には、

俺の知らぬところで起きた、

親友の危機を知らせる、

証が記されていた……









The departure
〜旅立ち〜






曇った面持ちで電車に揺られながら俺は考えていた…。
何故その事が起こることを想定していなかったのかと…。


否、分かる筈がない。
分かる筈がないのだ…。


彼は突然学園を去って行ってしまったのだから…。


(シャウド…。何故突然お前は学園に戻ってきたんだ…。)


予兆は確かにあった…。
数ヶ月前に一度強い風が吹いて、
ほんの一瞬シャウドを思い出させたのだ…。


そしてその後に来た全世界の強風と手紙…。


それはシャウドが学園に戻って来ている合図であった…。
手紙の文面からはシャウドが強い風があった日に帰ってきた事が分かる。
あの日に学園に戻り、
まさかゼウスと……、
ゼウスと『恋人』にまでなっているなんて…。


しかし、文面の途中に書いてあった言葉に俺はもっと驚いた…。
あのたった一言…。






『ゼウスを殺しちゃうよ?』






あの一言が頭から離れない…。


親友であるゼウス。
彼がシャウドに思いを寄せて居た事は、
シャウドと俺が付き合い始めた頃に気付いた…。


だがゼウスは俺たちが両思いだった事に気付いていて、
自分からあの時身を引いたようだった…。


けれど、今恋人同士ということは、
彼はその思い故に付き合う事にしたのかもしれない…。










俺もシャウドを今でも愛している…。


置いて行かれた時の喪失感…。
その事がきっかけで学園を去るに至ったのだから…。











あの60年前のある日、
シャウドは突然学園から去る事を決めた…。


あいつが何を思って出て行ったのかは分かった…。
でも、置いて行かれた俺の気持ちはどこへ行けば良かったんだ?


出て行くきっかけは俺の事だが、
何故何も言わずに行ってしまったのか…。


置き手紙1つを残し、
部屋の荷物を全て片付け、
まるで端からそこに居なかったように…。


愛しい思いは日が立つに連れ深まり、
悲しみもだんだんと高まり、
学園の居辛さが起こり、
遂にはゼウスにさえ何も言わずに学園を去ってしまった…。


たった一つ、
家からの電話一本に吸い寄せられて……。






今思えば浅はかだった…。
親友を1人学園に残し、
俺も同じようにシャウドを失った時と同じ悲しみをゼウスに与えたのだ…。


多分1番悲しかったのはゼウスに違いない…。
彼は1番事情を何も知らないのに、
友が二人も同時に居なくなってしまったのだから…。


俺はその分、
何も考えずに弟子と共にこの60年間を有意義に過ごしてしまった…。


だからこそ学園に急がなければならない…。
ゼウスを救う為に、
愛しいシャウドが誰も傷つけないようにする為に…。


だからこそ、手紙を読んだ後、
数ヶ月に渡って一族の連中を説得して学園に戻る事を承諾させたのだから…。















「師匠?顔色が良くないですが大丈夫ですか?」


電車の個室席で物憂げに考え事をしていたクラリスに、
ちょこんと可愛らしい少年が大きな翡翠のような瞳で顔を覗き込む。


弟子の光一だ。


「あぁ、すまない。考えごとをしていたんだ…。」

「でも、顔色が悪いですよ?」


心配性なのは優しい心を持っているからだろう。
本当にとても心配そうなのが見てわかる。


「安心しろ。久しぶりの学園だからいろいろと思う事があるだけだ。」

「はい…。」

「それに俺は医者だぞ?医療に関してはスペシャリストだ。
 自分の体調が良くないなら自分ですぐに分かるし、対処も出来る。」


そう言ってやると、そうですね。と光一は納得したようだ。









光一は俺の医療の弟子だ。
数十年前に訳あって育てることになった。


光一とって俺は、
兄であり、
父であり、
医療での師匠であり、
そして恋人だ。


そう、今の俺にとっての恋人である。
そう考えると、俺もシャウドと変わらないものだ。


本当の思いは深い所にあるくせに、
確かに光一が好きだという思いだけで恋人となった。
半分は騙しているようなものなのかもしれない。


でも、
光一の素直で、
優しくて、
純粋で、
温かい心に惹かれて、
思いを通わせ今に至る…。


シャウドと異なる点はそういう所かもしれない。
確かに好きだが、利用しているわけではない。
愛があるからこそ付き合うのだ。









学園に連れて行くのは、
学園に生活を移すということもあって、
本家に光一を置いていける筈もなく、
光一が学園の試験を合格した上で、
一緒に学園へ行く事にしたのだ。


ちなみに配属になるのは同じ医療部門である。
まぁ俺が今まで医療を教えて来たのだから、
そうなるのが当たり前なのかもしれない。


しかし、光一の面白いところが、
医療部門に在籍という事になり部屋も医療部門に取ることになったが、
魔法部門にも在籍という事になったのだ。


本人曰く、
昔から魔法は得意だったから実力試したいという事らしい…。
結果がどうなるのかはこれからの楽しみの1つだ。









光一はクラリスと同じように伸ばして結んだ髪の毛をいじりながら、
これから始まる学園生活に緊張しているようだった。


「光一、学園生活は楽しみか?」

「はい、師匠。僕学校は小さい頃以来初めてなので楽しみですw
 師匠が教えてくれた事が活かせるように精一杯頑張りたいです。」


そう満面の笑みを向けられると、
なんだか無性に嬉しくなる。


自分は不安で、
これからどうなるか想像もつかないが、
こいつが居れば頑張れる気がすると思わせてくれるからだ。


光一は嬉しそうに語り続ける。
くるくると表情を変えて、
学園生活への期待を膨らませて…。









まるで学園に入る頃の自分のようだ…。


光一のように嬉しそうではなかったし、
表情も無表情な感じが多かったが、
自分の家から離れた違う環境で生活できるということに、
期待と緊張がいっぱいだったのだ…。


その後があんな事になるとは思わなかったが、
あの頃の憂い憂いしい気持ちは分かるような気がしたのだ…。


「アカデミー学園は普通の学校と違うし、経済のトップですし、規模も大きいし、
 人も沢山居るし、システムとかもいろいろとあるから今から楽しくてしょうがないです。」


そう言っている光一の頭をそっと撫でて、
何かあったら俺に相談しろと言うと、
はにかむように照れて笑うので自分も自然と不安が緩む。






だから、思った。
とにかく何があろうと、
昔のようにぶつかって行こうと…。


学園の平穏の日々の中で、
俺たち3人だけは何かが違うとしても、
俺はこいつを守っていかなければならい…。


心配や不安は今は不用だ。
着いて、
2人と会って、
ぶつかって、
そこからまた悩んだりすればいい。


今はとにかく光一と共に、
学園生活へ戻る事だけを考えようと……。















電車は遂に砂漠ルートへと突入した。
最後の終着駅である。
アカデミー学園がある広大なる砂漠の中へと…。


学園へ着実に近付いて居ると思うと、
何だか懐かしい気持ちになる。


あの頃の医療部門へかけた情熱や、
シャウドたちと出会った時の思い出、
そこから恋愛へと発展し、
アイルや萩と出会い、
人との関わりによって、
自分の気持ちが様々に変化していったことを…。


自分が使っていたあの部屋は変わらず残っているだろうか?
シャウドやゼウスは姿は変わらないものの、
髪型とかは変わっているのだろうか?など、
今だけは穏やかな気持ちで考えている。




すると、光一が突然立ち上がった。


「師匠あれが学園ですか!?」


窓からひょっこりと光一が顔を出して、
少しずつ見えてくる大きな建物を指差した。


変わらないままに残っている学園の姿である。


「そうだぞ。あれがアカデミー学園だ。」

「うわぁ、噂で聞いてたよりももっともっと大きいですね!!」


その目は壮大な物を見ているようできらきらと輝いている。
あぁ、なんて純粋な奴なんだとついつい溜め息をついてしまう。


そして、間もなく駅に着くと言う館内放送が流れた。


「師匠、降りる支度をしないとですね。」


光一は棚から荷物を下ろしたり、
出してあった荷物をまとめたりすることをし始めた。


その可愛らしい光景を眺めていた時に、
ふと腕を引っ張って抱き込んだ。


「わわっ!!し…師匠!?どうしたんですか!?」


しっかりとその存在を腕に抱きこんでから軽く腕の力を緩める。
すると、光一がぷはっと息を吸うように顔をクラリスに向けた。


「師匠?」


黙っているので問いただす光一にクラリスは微笑む。


「入学おめでとうをまだ言ってなかったな…。おめでとう光一。」


そう言って、光一に深く口付けをする。


光一は顔を真っ赤にしながら驚いている。
何度も何度も角度を変えて深くキスをすると、
光一の緊張が少しずつほどけキスに答えてくる。


駅に到着するまでずっと…。






俺はお祝いの意味でのキスをしたが、
反対に勇気をもらっていた。


これからやってくる出来事に立ち向かう勇気を…。
そして今までの日々に決別を…。


蘇るのは60年前の日々と、
これからの日々、
3人で作っていく先の思い出、
辛い戦い…。


でも、きっと大丈夫。
俺は俺のままでいい。
優しさも愛情も昔とは少し変わったかも知れないけど、
でもきっと……。






そうこうしてる間に電車は駅に到着した…。
荷物を手に取り光一と2人で駅のホームへと降り立った。


遂にここまでやってきた…。




待ってろ…ゼウス…。




待ってろ…シャウド…。

















3人が交錯する時…



一体何が起こるのか…



それは一体どんな悲劇を生み出し…



どんなに深い闇に捕らわれるのか…



アカデミー学園で



静かに悲しみの物語が



幕を上げようとしていた……


















遂にクラリスがアカデミー学園上陸です><
くどいぐらいに同じ台詞を吐いてますが、
お気になさらず…;;
これから舞台はアカデミー学園を中心に展開してことになりますが、
ドロドロ+笑いの両方を盛りこんでるので、
落ちっ放しの展開ではないと思われる…。
まぁ次回をマテw





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