『風がこの地に向かって流れたら、僕は帰ってくるから…』



そう言って、この地を去っていった
お前…



置いていかれた俺と
………心。



ズルイと思った気持ちは飲み込んだ



アイツの考えを理解する事が出来たし



何より、自分の事よりもアイツの事を優先したいと思えるくらい
アイツの事が







好きだったから……








RETURN












「今日は随分と風の強い日だな。」



アイフル家の自分用にある館の一室で、ソファーに腰掛けながら、
先程から強風のためにガタガタと鳴る窓を、クラリスは煩いと言わんばかりに睨みつけていた。





最愛の恋人が学園を去ってから、早60年。
アイツが去ってから暫くは学園に残っていたが、
父による、しつこい帰還命令と、アイツがいなくなってしまった事への酷い喪失感による学園の居辛さに、
アイフル家のという二度と戻るまいと思っていた場所へと帰ったのだった。
現在は様々な事があって、当主地位につき、一人の少年を育てる身となっている。





「風か……そういえば、アイツ今ごろ如何してるかな?」



ふと『風』という言葉に思い出す、愛しい人の眩しい微笑み。
優しさを含んだ声。



そのまま思い出に浸りかけてハッとし、何かを振り払うようにクラリスは首を横に振った。



「今更、アイツの事を思い出して、どうすんだよ…」





アイツは俺をアッサリと置いてったのに……





そんな堂々巡りをこの60年間、何度繰り返した事だろう。



未練ばかりの残った自分に、踏ん切りのつかない自分に、
情けなく、馬鹿らしく思えた日々もあったけれど…



結局、心からアイツへの思いを忘れられた事は一度もなかった。





「……テレビでも見るか。」



気を紛らわせるつもりで、テレビの電源をONにする。
偶々映ったチャンネルでは、ニュース番組がやっていた。
そのニュースによると、最近世界各地で強風が吹き荒れているらしい。
地域によっては、ちょっとした被害も出ているそうだ。



「台風の時期でもないのに、各地で強風ね。別に、どうでもいい事だけどな。」



直ぐにニュースに見飽きて、別のチャンネルを見る気にもなれず、
クラリスはテレビの電源をOFFにした。



すると、タイミングを見計らったかのように、窓からコツコツという音が聞こえてきた。
その音が耳に飛び込んできた瞬間、もう窓の側に寄っていたクラリスは一本のメスを取り出して構えた。



そして精神を集中させながら、ゆっくりと窓の外を覗き込んだ…

てっきり刺客かと思っていたクラリスだったが、そこに訪れた客人は一羽の可愛らしい小鳥だった。

クラリスは思いっきり気の抜けた顔をした後、ふっと微笑し、構えていたメスをしまうと、可愛らしい客人を部屋へ招くため窓を開けてやった。



だが、小鳥はただの客人ではなかった。
足に紙を括りつけていたからだ。
何となく紙を解いて開けてみると、それは間違いなく手紙で。
小鳥は手紙を届けるのが仕事だったのだと言わんばかりに、紙を解いたとたん、まだ開いていた窓から飛び立っていった。



仕方なく手元に残った手紙をクラリスは読むことにした。

手紙を開いて、まず書かれている字の筆記に驚くことになった。



字の筆記は、もう見ることはないだろうと思っていた、愛しい人の筆記だったからだ。



そして手紙には、こう書かれていた……





『僕の最愛の恋人へ

  久しぶりだね。元気にしてた?

  浮気なんてしてないよね?

  そうそう、連絡が少し遅くなっちゃったけど、

  やっと学園に帰る決心がついたから、学園に帰ってきたよ。

  でも、帰ったのは良いけど、クラリスが居なくて吃驚しちゃった。

  しかも、絶対帰るつもりはないって言ってた家に帰ってるなんてね。

  で、一つ報告があるの。

  僕ね、クラリスが学園に居なくて、毎日寂しかったから、君の親友のゼウスと付き合うことにしちゃった。

  だけど……ゼウスだと、物足りないんだ。

  クラリスのように、奪い尽くしたいって気持ちが起きないし、

  なにより、君を愛する気持ちの方が強すぎちゃって……

  だから、クラリスも早く戻ってきてくれないかな?

  じゃないと、寂しさに狂って、ゼウスのこと殺しちゃうかもしれないよ…

  ……………                                     』





手紙にはまだ続きがあったが、クラリスが読むことが出来たのは、そこまでだった。
クラリスにとって、愛する恋人が別の奴と付き合い始めたということは、確かにショックだったが、

それ以上に、親友が殺されてしまうという事が、衝撃的だったのだ。



何故、そんな事になってしまったのだろうか?



親友には、自分と彼が付き合っていたことを、話していなかったわけではないのに…



アイツの性格は分かっていた筈だった。
だが、ここまですると、どうやったら予想する事が出来ただろうか…?



気が付けば、風はやんでいた。





数ヵ月後。
何とか一族を説得したクラリスは、育てている少年を連れて、
学園へと帰還した……



友を守るために














アカデミーの小説、第一弾です。
最初だというのに学園が舞台ではないし、主人公ではないのですが…(汗)
序章程度に考えて読んでもらえれば良いです。
技術的なものがないので、上手く出来てるかどうか…
感想を頂けると嬉しいですvv









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