風が吹いた。



かの地へと…











自然と君が恋しくなって、今乗り込もうとしていた列車と逆方向に向かう列車に、気付けば乗り込んでいた。











なのに…












CRAZY HEART









『彼なら、学園を出たわ』


それがシャウドに突きつけられた言葉。





60年前に「いつか必ず戻る」と誓った地に、彼の姿は無かった。
しかも、「二度と帰らない」と言っていた、『アイフル家』という名の牢獄に帰ったと…










「嘘吐き…」


その知らせを聞いてから、早一ヶ月。
彼の事を思い出すたびに漏れる言葉は、毎回同じ言葉。
別に『誓った』だけで、『約束をしていた』わけではなかったが、酷く裏切られた気分になってしまうのだ。










愛し合っていた…







どんなに多忙の日々を過ごしても、毎夜身体を重ね、
休みの日は、絶対一緒に時間を過ごし、
泣きたい時、疲れたときは、それぞれが支えと居場所となり、
お互いが持つ、暗い過去の秘密も知り尽くしていた。





それなのに…










綺麗に手入れを施された庭園が見渡せる、学生たちの憩いの場でもあるお気に入りのテラスで、
のんびりと図書室で借りたばかりの本を読みながら、ティータイムを楽しむつもりでいたのに、
何時しかページを捲る手は止まり、紅茶がすっかり冷めてしまうほどに、
気付けば彼の事ばかり…

「紅茶、淹れ直してもらおうかな…」

まだ半分紅茶が残ったカップを見つめ、ふとそんな事を考えて店員を呼ぼうとした時、
チリンと来客を告げる鈴の音が聞こえ、何気なく視線が出入り口の扉へと向かった。
入ってきたのは顔に見覚えのある男。
その男が何者なのか、人生で数多見てきた顔の記憶から思い出すのに、時間はかからなかった。
男の名は『ゼウス・フォード』。
シャウドの親友でもあり、





愛しいあの人の……『親友』。





その単語が浮かんだ時、心の奥底で誰かが微笑を浮かべた気がした。
「彼を利用しよう」と、悪魔の囁きを残すように。
何故かそう思った瞬間、『彼とこのまま出会ってはいけない』と、危険信号が遠くで鳴り響いたが、
時、既に遅し…

「シャウド?」

目が合って、シャウドに気付いたゼウスは、こちらへと向かってくる。
咄嗟的に逃げようとしたが、身体は硬直したように動かず、「来ないで!」と叫びたくても、声は出なくて…
そんな気持ちとは裏腹に、シャウドが彼にしたのは、

「久しぶりだね、ゼウス」

心の奥底の企みを隠すような、甘やかな微笑みだった。
一瞬、ゼウスは吃驚したように、こちらへ進む歩を止めたが、また直ぐに歩を進めた。

「…久しぶり。帰って来たって、本当だったんだ?」
「嬉しい?」
「もちろん」

シャウドの企みなど気付かない彼は、本当に嬉しそうに微笑んだ。
いつの間にか、もう自分を止めようとする声は、聞こえなくなってしまった…










「おやすみ、ゼウス」
「おやすみ」

久しぶりの友との会話は思ったより弾み、夕刻にテラスの開放時間が終了した後も、
ゼウスの部屋に移って語り合った。
時刻はもうすぐ日付が変わろうとする時間。
学園生たちは皆、それぞれに与えられた寮室に戻り、廊下の照明は時間と共に消灯される。
なので、もう話を切り上げて、「また次の機会に話そう」という事になり、
たった今お休みの挨拶を交わしたのだが、シャウドは廊下に一歩踏み出しただけで、立ち止まった。

「如何したんだシャウド?」

不思議に思って、ゼウスが尋ねた瞬間、カチリと何かのスイッチが入った気がして、
気付けば彼に振り返って抱きついていた。
急に抱きつかれたゼウスは、とっさの事に支えきれず、2人して部屋の床に倒れてしまった。

「イッッ…一体如何したんだよ?」

倒れた時に打ってしまった身体が僅かに痛むのか、苦い顔をしながらゼウスは身体を起こし、再度シャウドに尋ねる。
でも、シャウドは何も答えずに口を閉ざしたまま、俯いた。

「本当に如何したんだ?」
「…………っ」
「ん?何?」

小さな小さな声で、シャウドが何かを呟いた。
だが、その声は小さすぎて、ゼウスは何を言ったのか分からず、
ちゃんと聞き取ろうとして、シャウドの顔を覗き込むように首を傾げた。
その時……

「……え?」

ゼウスは吃驚して、シャウドの顔を見つめたまま、固まってしまった。
思わぬキスをシャウドが仕掛けてきたから…
ほんの一瞬、唇が触れるだけのキス。
でも、ゼウスが固まっていられたのは、僅かな時間だった。
突然シャウドが涙を零して、泣き始めたからだ。

「……寂しい…寂しいよ…」
「…?!」

さっきより大きい声で漏れた言葉。
そんな言葉や涙に、ゼウスは辛そうな顔をして、シャウドの身体を強く抱きしめる。

「…泣くな。俺が…俺が傍に居るから」
「……ゼウス…」

優しい声音でゼウスは耳元に囁いて、シャウドの顎を持ち上げて上向かせ、まだ頬を伝う涙をそっと拭う。
そして震える唇に、今度はゼウスの方から口付けてきた。
けど…
それは、子供っぽい唇が触れるだけのキスではなく、









愛し合う恋人たちがする深いキスだった…




















誰か、止めて……

この人を傷つけない内に…誰か………



















物凄くお久しぶりのアカデミー小説第二弾。
何してたんだと、突っ込まれても冷や汗を垂らすのみです(滝汗)
それにしも、やっと主人公が出てくる話が出来ました。
でも、こんな奴ですみません…
『主人公って普通こうだろう!』みたいなモノがあるでしょうが、
私としてはコゲな奴でも、キャラ愛に溢れております。
感想下さると嬉しいです。










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