どす黒くて…

穢れていて…

気持ち悪くて…



誰にも受け入れてもらえなくて…



怪我をすることや

発作が起こることを恐れた…



人知れず…

孤独な闘いは…

いつもいつも

続いていた…













Brack Blood
〜黒い血〜









心臓が痛い…

人では有り得ない血の色が自分の口の端から地面に零れる…。


この色はなんだ?
人間の血の色か?


魔族にこよなく愛され、
甘美なまでの欲をそそられる血…。


人間と同じ赤い血ではない、
呪われた黒い血…。


フォード家は呪われている…。






昔、父親が言っていた。


「お前は長男だしな。1番この家の血を濃く受け継いでいるかもしれない…。」


小さい頃の俺にはそれが何を意味するのかなど分かりもしなかった…。
しかし、それは自分が少しして大きくなった頃に理解することとなった…。






「イテテ…;」

「あれ、ゼウス君転んじゃったの?」

「どこか痛くない?」


小学生に上がったばかりの頃、まだ……。
いや、思い出すのはよそう…。


そんな頃、学校で出来た友達と自分の家の広い庭で遊んでいた時のことだ。
俺は足場の悪いところで滑って転んでしまったのだ。


それまでの俺と言えば、怪我をすることなど滅多になかった。
大抵家族が一緒の時で、怪我をするとすぐに父親が飛んできてさっさと治療してくれていた。
だから俺は知らなかったのだ…。
自分の血の色のことなど…。


「う〜ん…、膝をちょっと擦り剥いたみたいだ…。」

「どれどれ、僕が見てあげるよ。」


友達が持つ、優しい親切心。


「ちょっと泥で汚れちゃってて分かり辛いなぁ…。」

「あっ、そこの小川で洗ったらどうだ?」

「そうだね。ゼウス君歩ける?」

「…うん。ちょっと痛いけど大丈夫…。」


友達に手を引かれて小川へ行って、転んだ両足の泥を2人の友達は洗ってくれた。


「イテテ…;」

「ごめん;ちょっと沁みるけど我慢してね。」

「泥を落とさないと傷口が膿んじゃうってお母さん言ってたしな。少し我慢我慢。」

「うん。分かった…。」


しかし、段々に雲行きは怪しくなる。
汚れは一通り洗えたはずなのに、一向に汚れが取れた気配はしない…。
友達も不審に思って一度足を川から出すように促した。


「少しハンカチで拭いてみようか?」

「そうだな。」


友達の1人がポケットから出した白い綺麗なハンカチを傷口に当てる。
軽く拭いて一度綺麗になった傷口から妙な感じがした…。






拭った傷口から出てきたのは黒い血だったのだから…。








「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」」


友達2人は驚愕の余り半狂乱となった。


「おっ…お前なんだよその血の色!!??」

「ばっ…化け物!!!!!」

「…えっ…、そっ…そんな…。」


差し伸ばした手を叩かれて2人とも腰が抜けてしまって動けないで居た。
顔面は蒼白…。
四肢はガクガクと震え、
目には涙を溢れさせていた。


すると、足音がして。
父親がやってくるとその場の2人は睡眠薬を含ませた布で眠らされてしまった…。


「お前は…、何をしたんだ…。」


父親はその場に落ちていたハンカチに染み込んだ血と自分の足を見て何が起こったのか理解した…。














その日のうちに、友達2人は今日合った出来事を忘却薬で消されて家に帰された。
そして、俺は自分の血の事についてその晩聞かされることになったのだ…。


フォード家は代々生まれた男の子の内1人が決まって黒い血を持って生まれてくる。
その血は、魔族にもっとも好まれ、
心臓に激痛が走ることもあるし、
制御仕切れないほどの力を発揮し、暴走することもあると…。


父もその血を受け継ぎ、薬で抑制したり、母に精神的なものを抑えてもらっていたらしい。
実際に父は指を軽く噛んで俺と同じ黒い血を見せてくれた…。


それから、これからは人前で血を流してはならないと厳しく教え込まれたのだ…。


















あれから、家は色々な事情があって今は疎遠となったが、
確かにその血は俺の中にも流れ続けている…。


そして、今この瞬間がまだ存在するのだから…。









今日の心臓の痛みは、いつになく酷い…。
ここ最近、ずっとなっていなかっただからだろうか?


裏部門の1人の個室は安心する…。
突然の発作で血を吐こうとも誰も見る者はいないから…。


だがその一方でここは俺にとっての棺桶かも知れない…。
1人寂しく死んで行く為の棺桶…。


発作に苦しみながら必死に抑制しようと床に蹲っていた。









落ち着け

お前は俺だ

なら大丈夫だろう?

誰にも見られる前に

落ち着くんだ






抑制

自制

拘束






心を抑えようと必死で、
俺は扉を開けて入ってきた人物に気付かなかった…。






「ゼウス?」


上から降ってくる優しい声に俺は驚いた。
その声の主は顔を見なくても分かるから…。


俺は汚れた服や床を見られたくなくて、
シャウドに背を向けたまま動けなかった。


「どうしたの?そんなところに蹲って。」


シャウドが近づいてくるのが分かる。






見るな

お前に見られたくない

また心配なんてかけたくない

学園に帰ってきたばかりなのにまたこんなこと…

お前は

お前は

クラリスを取り戻すことだけ考えてればいいんだ!!






そう思っても、もうこの場に居合わせたシャウドを追い出す事は不可能だった。
一歩、
また一歩、
ゆっくりとだが確実に近づいてくる。


涙が出そうだった。
自分が惨めだった。
まさか最悪のタイミングでここにシャウドが居合わせるなんて…。


俺は余計な心配をさせるのが悲しかった。
シャウドの気配がすぐ後ろまで来ると、謝罪の気持ちでもういっぱいだった…。


「あぁ…、また心臓が発作を起こしちゃったんだね…。」


すると、もの凄く心配して慌てる様子を想像していたのに意外にも予想打にしなかった声が降ってきた。
心臓の痛みに耐えつつもゆっくりと顔を上げると優しく微笑んで包み込んでくれるシャウドの顔があった。


「シャ…ウド…。」

「辛かったでしょ?なんでもっと早く呼んでくれなかったの…。」


そう言って、シャウドは軽く背を擦って少し楽になるように癒しの魔法をかけてくれた。


「魔法だけじゃ少し緩和するぐらしか出来ないからね。薬があるでしょ?どこ?」


聞かれて、俺は棚の中にある薬を指差した。
シャウドはすぐに取って持ってきてくれた。


「これでいいの?」

「…あぁ…2錠くれ…。」


瓶の中から2錠取り出してシャウドは口に含み水と一緒に俺の口の中に移してくれた。
ゴクリと飲み込むとすぐに薬が効き始めて心臓の傷みが段々と和らいでくる。


トクン…トクン…と正常の状態に戻って行くのが分かる。


「もう落ち着いたかな?それだったらシャワー浴びてきなよ。ここは僕が片付けておくから。」


服が凄い汚れてるよ、と言われて軽く背を押された。
ゆっくりとした足取りで風呂場まで行くと扉を閉められた。


「何であいつは大丈夫なんだろうな…。」









誰にも受け入れられないと思ったのに、
クラリスとシャウドだけはこの血を受け入れてくれた。



『大丈夫か?』

『辛かったら言ってね』

『俺も薬の調合手伝ってやるからな』

『僕で良かったら緩和するぐらいなら出来るんじゃないかな?』


当たり前のように差し出しだされた手。
それは俺にとっては暖かいものだった…。


しかし、60年経った今、その優しさに触れるのが恐かった。
シャウドのクラリスが居ないと言うことの事実に対する怒り。



捕まえる

取り戻す

束縛する

手に入れる

服従する



どの言葉が正しいかは分からない。
けれど、確かなのはクラリスへの明確な執着は今、
シャウドの内なる思いを秘めた心に宿っているのだ。


そのシャウドが優しさを普通にくれるのかどうか不安だった。
でも、表面的なものには、
優しさは当たり前のように俺に捧げられたのだ。


『ありがとう、そしてごめん。』


そんな言葉が今のシャウドに捧げるべき言葉かもしれない…。









シャワーを浴びて軽く着替えてからリビングへと戻った。


「すっきりしたんだね。」


優しい笑顔を見ると、今の自分の髪型とか心臓の事など忘れてしまえる…。


「すまなかったな、心配かけて…。」

「いいんだよ。親友である上に今は恋人なんだから。」

「そうか…、そうだな。」


ソファに座るとシャウドが立ち上がってこっちに歩み寄ってくる。


「髪、まだ濡れてるよ。ちゃんと拭かなきゃ風邪引くよ?」


優しくそっとタオルの上から頭に触れてクシャクシャと髪を拭いてくれる。
目の前の優しい香りにほっとして、シャウドの細い腰を抱き寄せた。


「えっ?なっ何??」

「いや…、落ち着くなぁって…。」


照れたようにシャウドは頬を少し赤く染めて固まってしまった。









良いのかもしれない…。
今のままでも…。


シャウドの優しさは今は俺に向けられている。
例えこの先何が起ころうとも…。
今はあるこの温もりは真実なのかもしれない…。


なら、今の『恋人』と言う関係に甘えていよう。


昔この学園に入ったばかりの頃の純粋な『友達』という関係はもう取り戻せなくても、
形だけでも取り繕われた『親友』であり『恋人』という関係は築かれた。


シャウドが未だにこうして俺の事を『友達』と認めている以上は何も疑わない。
多分、きっと心の端で多少は認めているからこそ、友達として扱ってくれるのかもしれないから…。


だから、

今だけは……












「なぁ、シャウド…。」

「ん?何?」

「抱いてもいいか…?」

「ばっ!!…馬鹿…そんなこと聞かなくたっていいよ…。」


その今自分の手の中にある温もりを確かめるように…。
優しく唇を重ねた……。




















その夜は月が怪しい光を放っていた…。
冷酷な瞳を持った1人の人物はその月の下であることを行っていた。



バキッ!グシャッ!!


「ぐっ…うわっ!!!」

「シャ…シャウドさん…?」


そこに居るのはいつもの優しさを逸脱したシャウドの姿があった。
ゼウスの部屋を後にした後のこと、
その服に返り血を浴びながら、
その金の髪を煌かせながら…。


ドカッ!!


「ぐっ…ゲホ…ゴホ…ちょ…あの…俺たち…何も…。」


容赦なく叩きつけられる暴力の嵐…。


「困るんだよね…ゼウスの心を傷つけて良いのは俺だけ…。」


魔法の印を描き重力の魔法を叩きつける。


『グラビティ・コア』


「うわぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!!!!」


そこに居たのは昼間ゼウスに罵倒を浴びせた連中であった。
男たちは身動きが取れないくらいにボロボロである。


「ゼウスはさ、唯一俺が認めてる『友達』なんだよ。」


冷徹に言い放つ言葉は氷の刃のように突き刺さる感じがする。


「クラリスとは別でまた俺にとって『特別』なの…。分かる?」

「お前らが罵倒する権利なんかはないんだよ?」


にっこりと笑っているのに優しさの欠片も感じられない威圧感…。


「今後二度とゼウスには手を出さないでね。次は殺しちゃうかもしれないから…。」

「ちなみに、今日のことを誰かに言うのもダメだよ?」










そこにあるのは、

残虐なまでの

『力』であった……。






いつも見せるシャウドではなく、

どこか闇を纏う悪魔のような姿であった…。















許さない

彼を愛して傷つけていいのも

ゼウスに手をつけていいのも

僕だけなんだから…






















シャウドの暗い部分初披露。
シャウド様恐いですw;
今回はゼウスの過去を取り混ぜた黒い血についての解説付き物語りかな?
多分この先何回も苦しんでる姿出るかもだし(笑)
まぁ次をお待ちくださいなw






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